【結婚式】ノープランで結婚式をあげたら(1)

 3〇歳生きてきましたけれど、結婚とはずっと無縁の人生だと思っていましたね。
ティーン時代は王道の少女漫画を読んで育ったはずが、結婚に憧れを抱くことはなかったし、友達が次々に結婚していっても微塵の焦りを感じたことはなかった。むしろ結婚式に呼ばれたら喜んで参戦して、ああいう幸福の極みみたいな空間に居ると純粋に素敵だなぁと思っていた。

結婚はゴールではなく始まりに過ぎないという考えがなぜか根強くあって、これから家族がらみの色々とか子供ができたら自由がなくなって大変そうだとか思っても全部他人事なので、まるでディズニーアニメのエンディングを観ているかのように、ただただハッピーオーラが充満した中に身を置いて居られるというだけの話です。

もともとおひとり様体質であり、ひとり喫茶店もひとりカラオケも、はたまたひとり旅も十八番と化していた自分にとって、赤の他人と共に暮らして人生を歩むなんてことは、全く想像もしていなかった。絶対無理だと思っていた。

それなのに!

人生とは~不思議なものですなぁ。

親にも「自分は結婚しない」「来世に期待してくれ」と再三言い続けてきた自分が、令和婚とかいうブームを敢えてスカして、平成最後の日に入籍してしまうなんて。

時はちょうどGW真っ只中。当然市役所はお休みで、休日窓口と書かれた薄暗い小窓からのっそり現れたオジサンにたどたどしく婚姻届を差し出してしまうなんて。

 ハァー!信じられない。

だけど1番信じられないのは、両親であろうと思う。娘の花嫁姿を見ることはないのだろうと、半ば諦めかけていた2人だろうから。兄妹が4人もいて、どれもアラサーだというのに誰一人として浮いた話もない日々が続いていたこともあって、喜びと驚きはひとしおのことだったであろう。

いやー親孝行した!

と、ここで満足しても良かったところ。

結婚式をあげることになった。

婚姻届を提出したといってもただの紙切れであるし、いまいち結婚したという実感がわかない。それは本人たちもそうだし、家族のみんなも多分同じだろう。ましてや4人兄弟のうち、最初で最後の祝い事になる可能性もある。

それなら結婚しましたと皆にわかりやすく伝え、かつ記憶に残るようなことといえば、てっとり早く結婚式しかないのだった。

そもそも結婚に興味のきょの字もなかった自分。

当然結婚式など毛頭考えたことがない。ウェディングドレスを着た自分なんていうのも想像したことがない。

何から始めて良いかさっぱりわからない。

とりあえずよくCMで見るゼクシィを検索してみたりした。アプリをダウンロードして、コラムだのを読み漁ってみた。プレ花嫁などというタグがついたブログを読んでみたりもした。

・・・さっぱりイメージがわかないね!

女の子なら誰もが夢見るっていうのはお門違いなんですね。今の時代。結婚しなくてもいいという側の人間でしたからね。今更、未来永劫独身貴族精神で生きていた脳を、どうハッピーウェディングにシフトしていけばいいのか、結婚雑誌に目を通したところで上手くいくはずもなく、とはいえやると決めたら即実行のスタイルが後押しして、近場にあった式場の資料を請求。

そしたらまぁーすぐかかってくる。勧誘の電話っていうのでしょうか。

やたら甲高い声で祝福されて、2人の出会いの触りなんかでやたらと興奮して、確かに根暗なプランナーは嫌ですけども。ひとまず資料請求してみっか~って軽く考えていたこっちのテンションが追い付いていなかった。

夜の9時くらいに電話がかかってきたこともあるし、資料を直接家に届けたいって近所まで迫り来るっていた時にはさすがに恐怖を感じたほど。

それでも結婚式をやると決めた以上、避けては通れぬ道である。

郵送してもらった資料を眺め、しばらく放置した後、式場に行ってみることにしました。

式場は家から近いところ。というのも、旦那さんと出会った町だったので、縁もゆかりもない場所で挙げるよりは思い出の土地で挙げたかったというのがあります。

見学予約もせず、ちょっと近くまで来たんで寄ってみました~っていう体でエントランスをくぐる。日曜日だったのでプランナーたちは他の接客で大忙し。何かプランとか書いてある参考資料がもらえたらなーと思っていた程度だったので、日を改めても良かったのだが、「ちょっとお待ちください」と椅子で待機すること数分…。

現れたのは、式場の支配人!

支配人自ら腰を上げて対応をしようというのか!ちょっと立ち寄っただけの私たちに!そんなことしたら帰りづらくなる!

と内心思いつつ、流れに流されてアンケートを書くように言われました。

いつ式をあげたいか、どんな式にしたいか、思い出の曲などなど…。

まぁ書くだけならな、と深く考えずに記入。その後せっかくだから式場を見てみませんか?と促され、まぁ見るだけならな、とこれまた無抵抗で案内されることに。

チャペルを拝見する前、旦那さんと腕を組んで歩いてみましょう!となぜかリハーサルのような展開になり内心戸惑う2人。互いに絶対こんなつもりじゃなかった…と心の中で思っていただろう。

しかしそこは支配人。

言われるがまま立ち尽くす私たちの傍、大きな扉の前で「バージンロードの意味はご存知ですか?」とそっと囁きかけてくる。

「いいえ知りません」

なにせ結婚式に興味がなかったもんで!

 

「バージンロードというのは、花嫁であるあなたがお母さんのお腹の中にいる状態を指します。扉が開いた後一気に響き渡る拍手は、あなたが生まれたことを祝福するもの。一歩一歩進んでいくのはあなたがこれまで歩んできた人生。そして新郎と出会い、お父さんの手から新郎様へバトンタッチされ、2人で新たな人生を歩んでいく。そんな意味が込められているんですよ」

 

支配人の柔らかな口調で語られるその話に聞き入り、思わずポロリと涙してしまったのはこの私です。

あれ、私は冷やかし程度に立ち寄った客ではなかったの?

「それではいってらっしゃい!」

支配人が扉を開く。

チャペルに流れるユーレイズミーアップ。

しずしずと歩いていく私たち。

何かこのチャペル良い香りが漂っているなぁ。内装もナチュラルで、自然っぽくて。

あれ?あれあれ?

と思いつつ、再びチャペルの外へ出ると「おめでとうございま~す!」と知らない人たちがフラワーシャワーで待ち構えているじゃないか。

披露宴会場に移動したらしたで思わぬスポットライトを浴び、アンケートで書いた好きな曲を良い感じのタイミングで流され、数人のスタッフ(初見)たちの拍手喝さいと熱い視線を浴びながら階段を下り、何が何だかわからない2人に容赦なく降り注がれる「おめでとうございま~す」の言葉たち。

まずねえ、アンケートに出てきた好きな曲っていうのは、このためのものだね?うっかり窓際に寄ってしまった虫をがっちり捕獲する虫とりテープみたいに、何が何でもこの客を逃さん!という強い意志を感じ、そして屈した私たちは心ここに非ず状態のまま、あれよあれよという間に仮契約を交わすのであった……完。

 

いまどきの式場っていうのはどこもああいう感じなんでしょうか?

普通はいくつか式場を見て回って話を聞くのでしょうが、どこもあんなに手厚くもてなされては、ガラス玉のような2人の脆いハートは溜まったものじゃありません。

見学を終えて打ち合わせルームで待っている間もスイーツが出てきたり、なぜか「2人のために」と石けんで花をこしらえてみたり、飲み物だってお代わりし放題じゃないですか。なんでそんなに親切にしてくれるんですか。なぜ見ず知らずの2人に、溢れんばかりの笑顔を見せてくれるんですか。それが仕事ですか!プロだな!

ということで、式場には安易に踏み入れてはいけません。

 いえ、そもそもしっかりとした式のイメージがある人たちなら、巧みな話術やサプライズ演出に踊らされることはないのだと思います。

私たちがまんまと契約まで進んでしまったのは、すべてノープランだったから…。

 

そんなノープランの結婚式。

 

どんな風に進んでいくのか、記録していきたいとおもてます。