【警備業】30時間の研修と優しいおじさん編(2)

 

 ~前回までのあらすじ~

pigeonmilk.hatenablog.com

 駐車場、デパート、一般道路…ありとあらゆる場所に存在する警備員。
それまで全く畑の違う場所にいた自分が警備員として働くまでの経緯を残します。

手始めに30時間の研修

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警備員になるためには、初めに30時間に及ぶ研修を受けなければいけません。
会社によって実技が含まれる場合もあるようですが、自分は座学オンリーでした。
1日7~8時間を4日間。学校の授業のような風景です。ここで警備に関わる法律や、警備とは何か、過去に合った事故の事例など~さまざまな説明を受けます。

研修初日、今から現場へ出動するという男性がいました。その人は私が面接を受けた時に研修を受けていた人だったので、自分もいずれあんな風に出発するのかな~とぼんやり見送ったことを覚えています。

研修自体は資料を目で追いながら教育を受けるだけ。椅子に座って話に耳を傾けていればいいだけなんですが、予備知識がない人間からすると非常に頭がこんがらがります。
分厚い資料が計4冊。その中からかいつまんで説明しているといっても、やはり頭にすんなりと入る内容ではなかったですね。
おそらく情報量が100だとすれば、10くらいしか頭に残らない。もちろん経験者や交通ルール等に詳しい人であれば飲み込みも早かろうと思われますが…。

それまでほとんど動物関係しか携わっておらず、車の運転もほぼ皆無な人間からすれば、すべてが1からのスタート。
これをすべて頭に叩きつけるのか…と思うと自信がなかったです。とはいえ最終テストなどはないんですけども。

それからどこの会社も同じだと思いますが、研修中も給料が発生します。研修生としての値段なので、実際の額面とは異なりますが、行き当たりばったり生活を送っている身としては大変ありがたかった。これが30時間でだいたい3万円程度。もちろんすぐにもらえるわけではなく、給料と合算して支払われます。

研修中に出会ったおじさん

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研修は私以外に中年のおじさんが1人いました。
50代のおじさんで、働きながら全国各地を転々としているという話。真面目で親切で、事務所で顔を会わせる度にお菓子をくれる優しいおじさんでした。
このおじさんも警備は未経験ということで、そこはかとなく生まれる親近感。世代の違いはありますが、お互いに抱えている不安は同じ。
我々は本当に警備員になれるのだろうか・・・。

「だけどまぁ、1か月半頑張ればいいんだから。そう思えば気が楽ですよね」

おじさんはそう言ってにっこり微笑む。
慣れない場所で、心細さを緩和してくれる存在でした。研修後にはご飯を食べに連れて行ってくれたり、寮までの道のりを一緒に帰ったり、健康診断に行ったり。戦友といえるのかどうなのか。とにかく同じ時間をわかちあった同士ではありました。

※ちなみに寮は会社が無料で提供してくれました。(研修の間だけ)

「え!○○さん辞めちゃったの?!」

研修3日目あたりだったでしょうか。なにやらざわめき立つ事務所内。どうやら研修初日に現場へ旅立った男性が早くも辞めてしまったという話。
現地に到着し、新人警備員として研修を受けた翌日に辞退したそうです。つまり実際の仕事現場へ行く前に辞めてしまったという。

理由はずばり「自信がない」

地方から上京し、4日間の研修を受け、会社の人に現地まで送り届けてもらって、いよいよ仕事開始!という寸前で、急ブレーキがかかってしまった模様。
その話を聞いて、私とおじさんは俄かに震え上がる。

「現地で研修を受けた後に辞めたくなる現場って、いったいどんな状況なんだろうか」と…不安は増し、まるで噂話を楽しむ女子中学生のように「ヤダー!」「どうするー?!」などとキャッキャしてしまいました。

会社の人によれば、すぐに辞めてしまう人は少なくないのだとか。
しかしたった1人に30時間をかけ、数時間におよぶ車の移動を経て、やっとこさ新人を送り込んだのに、結局機能せずに終わるというのは、会社の人間からすれば辛い話ではあります。

されとて、自分も実際に現地に降り立ったら、同じような気持ちに至る可能性だってあるわけです。しかして未だ事務所で座学を受けている身からすれば、すべてが想像の域。どんなことが待ち受けているのか、とにかく目の前にあることを消化することで精いっぱいでした。


研修を終えて…いざ、現地へ出発

30時間の研修が済み、ついに現地へ出発する朝がきました。この日も私はおじさんとコンビニへ行き、まるで遠足でも行くような気分でお菓子や飲み物を買い込み、片道4時間ほどの道のりを車移動。

移動途中にトキオの山口が起こした事件がショックで仕事を休み、引きこもってしまった隊員がいたという摩訶不思議な話などを耳にしながら、変わりゆく景色に少しずつ意識がぼんやりして、ふと「自分は何をしているんだろう」と我に返ったり。

立ち寄ったSAで昼食をとる間、名前も知らない湖を眺めていたら、

「おこわ食べませんか?」

そう笑顔で歩み寄ってくれたおじさん。
ホームシックではないけれど、新しい仕事に対する不安が募りつつあった様子に気づいてくれたのやも。

おじさんとはいろいろ相談しあった仲。それこそ連絡先も交換していなかったけども、現場へ降り立って仕事を始めてからもああだこうだお話をするんだろうな。とひそかに思っていました。

知らぬ間に居なくなってしまうとは思いもせずに。

 

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続く